STORY 37 : サウナシュラン受賞施設インタビュー 「SANA MANE / SAZAE @Naoshima, Kagawa」

STORY 37
~サウナシュラン受賞施設インタビュー~

全国12000以上ともいわれるサウナ施設の中から、革新的な11の施設を毎年表彰するサウナアワード「SAUNACHELIN(サウナシュラン」。
その狭き門をくぐりぬけノミネートされた施設は、日本のサウナ界のけん引役として、多くのサウナたちを虜にしてきた。そんなサウナ施設を作ったのは、いったいどんな人なのか。どのようにサウナと出会い、どうやって理想の施設を作り上げ、運営しているのか。最高のサウナの裏舞台に迫り、物語を追った。

SANA MANE / SAZAE @Naoshima, Kagawa
SAUNACHELIN 2022 受賞 

オーナー 眞田祐作サウナと自然の調和が生み出す
エンタメ性に心惹かれた

 始めはあくまで、ビジネスの一環でした。
 私が経営するグランピング型リゾート施設「SANA MANE」で、客足の鈍る冬に何か集客ができないかと考え、試しにテントサウナを導入したことーーそれが人生を変えました。
 それまでサウナは何度も入っていましたが、そこまではまりませんでした。あくまで温浴施設の一つの設備という認識でしたね。
 しかし、自分の施設に導入するとなると、目線が変わってきます。魅力あるサウナを作るには、やはり専門家の力を借りるのがいいだろうということで、サウナ師匠こと秋山大輔さんに話を持っていきました。
 それで実際にテントサウナを導入し、サウナの楽しみ方をサウナ師匠に教えてもらってから、私はサウナのとりこになっていきます。
 ととのう感覚はもちろん、サウナに入りながらリラックスして語らい、時に海に飛び込み、焚火を囲んで外気浴をする……これはすごいエンターテイメントだと思いましたね。


 そんなスタートだったのもあって、自然と調和したサウナには今でも魅力を感じます。たとえば御船山楽園ホテルの「らかんの湯」は、ホテル併設でありつつも御船山の雄大な自然を生かし、山の音や水の音をすごく大切にしていて、自然を味方につけている素敵なサウナだと思います。
 SANA MANEでもテントサウナを導入して半年くらい経ち、「海に飛び込めるのがいい」などと自然とともにサウナを楽しんでくれるお客さんが増えてきました。ただ、自然は気まぐれです。強風の日にはテントサウナの煙突が立てられず、海も荒れて入れなかったりします。
 サウナ目当てで予約してくれたお客様が、天候が悪くてがっかりする顔を見るたびに、「このままじゃだめだ」と感じました。
 自然と調和しながらも、ある程度天候に左右されずに楽しめるような施設を作りたい。そんな思いがずっとありました。
 それでサウナ師匠に相談しつつ、建築家を探していたところ、友人から「そういえば建築家の隈太一さんは別荘にサウナを作っていたよ」と聞きつけ、アプローチしました。自身でサウナを建てるくらい好きな人のほうが、いいものができそうじゃないですか。
 こうしてサウナ師匠(TTNE株式会社)プロデュース、隈太一さん(隈研吾建築都市設計事務所設計)設計という座組で、新たなサウナを作ることになったのが、2021年です。
   
 当時の私のイメージとしては、まずお客様が瞑想できるような落ち着いたサウナがいいと考えていました。外には素晴らしい景色があるので、内側はあまり明るくせず、上から光が下りてくるくらいで十分。あとは垂直水平のような構造よりも、心地よくもたれかかれる丸みのある構造がいい。そんな感じで隈さんにオーダーした記憶があります。
 それで上がってきたデザインを最初に見た時、僕もサウナ師匠も唖然としました。建造物としてはアート性が高く美しいデザインでしたが、サウナとしてはまったくの異質さがありました。いくらデザインがよくても、機能が低ければ当然、人は来てくれません。
「これができたら唯一無二だけれど、正直できる気がしませんね」
 サウナ師匠がそう言うくらい、サウナの常識を覆す設計でした。果たしてこれでサウナとして成立するのか。不安はありましたが、一方でわくわくしましたね。もし完成できたら、アートの島と呼ばれる直島にぴったりで、どこにもないサウナ体験ができる施設になるんじゃないかと思いました。

1年間のシミュレーションで
不可能を可能にできるか検証

 制作過程には本当にいくつもの壁がありました。そもそもサウナづくりでは、天井はある程度低く作る、断熱材を入れるなど、鉄則ともいえる条件があります。しかし今回の設計はことごとくそれに反していましたから、補うための工夫が求められました。
 もっとも大きな課題のひとつが、天井の高さです。天井を高くすれば、熱が上部に留まってしまうため、到底サウナ向きとはいえません。しかし設計では、吹き抜けのような空間が上部に大きく空いている。どのように熱を循環させるか……。そこで建物の室内環境について研究する東京大学准教授の谷口さんに協力してもらい、空気の流れと、サウナ室の温度・湿度がどうなるか、徹底的にシミュレーションしていきました。結果としてできたのが、空気を上部の開閉部から押し出し、下からも引っ張ることで強制換気を促す給排気システムです。従来のサウナでは、空気は基本的に下から上に循環していくわけですが、それだと床周辺のほこりやちりも、どうしても上にのぼってきます。しかし逆に上から下へ空気が動けば、サウナ内の空気は常にクリーンに保たれます。

 
 その他に、断熱材を入れず木だけで壁を作るには、どのくらいの厚みが必要かなど、1年かけて徹底的にシミュレーションしました。ちなみに壁の厚みは平均450ミリに落ち着きました。
 建物全体の構造としては、厚さ28ミリの合板を1500枚使い、5000ものパーツに切り分けてパズルのように積み上げています。
 合板は、見た目が美しく、かつ水にも強い必要がありましたが、この合板を集めるのに、なかなか苦労しました。当時はウッドショックで、目をつけていた海外製の合板も高騰……そこで日本全国の木材業者に声をかけまくって、ようやくそろいました。
 建物としての構造は複雑ながら、合板をパーツにさえすれば、あとはパズルのように正しい位置に配置して組み上げるだけです。私もその作業をよく手伝っていましたが、木は湿気などでサイズが変わり、うまくはまらなかったりもして結構大変でした。



 こだわった点を挙げるなら、照明です。日本では安全面などの観点から、最低照度などのレギュレーションが定められています。しかし瞑想できるような空間にするなら、できるだけ照度は抑えたい。そこで照明デザイナーの小西さん(ALG - 建築照明計画株式会社)に依頼し、設計に組み込んでいきました。最終的には、足元に最低限の間接照明をつけ、上部の天井である丸い小さな窓からはいる自然光と、下から照らす人工光がうまく溶け合って美しい陰影が生まれるような空間となりました。


 設計面でもう一つ工夫したのが、水風呂です。普通に座るだけではなく、足を投げ出したり、寝転んだりと、思い思いに過ごせるようなデザインがいいと考え、機能美を追求しました。
 ストーブについては、個人的には薪ストーブがよかったです。でも煙突をつけた際のデザイン上の違和感や、止水の問題、そしてなにより木製の建物に対する安全面の不安から、電気ストーブを採用しました。
 なお、建物内の空間の広がりを出したかったため、ストーブは極力小さくしました。当然、出力は落ちますが、木製の建物全体が蓄熱するのを考えれば、いけるだろうと。そのあたりは、私の本職である設備工事の知識を生かすことができました。



SAZAEを入り口に
海も好きになってほしい

 こうして試行錯誤しつつも建設は進み、はじめて火入れをしたのが、2022年の9月でした。サウナの入り口につけるガラス扉が特殊な形状で製作が間に合わず、段ボールで壁を作ってから火入れをしました。
 入念にシミュレーションをしてきたとはいえ、実際にその通りになるのか、果たしてサウナとして成立しているのか……かなりどきどきしましたね。
 それでストーブの電源を入れ、熱が広がり、しばらくして自分が汗をかいているとわかった瞬間、めちゃくちゃ感動しました。泣きこそしませんでしたが、心の涙が汗となって溢れたような感じです。サウナ内の光と影のコントラストがとてつもなく美しく感じたのを、今でもよく覚えています。
 こうして完成したサウナが「SAZAE」です。その名が特徴的な外観からきているのは、想像に難くないと思います。
 そこから宿泊者限定で、お客様を入れるようになるわけですが、運営で最初難しかったのが、湿度の調整です。真新しい木材は、どうしても水を吸ってしまうから、湿度がなかなか保てない。サウナに入った友人からも「ちょっと乾燥しているね」と言われました。だから床に打ち水をしたりして、とにかく湿度に気を使っていましたね。
 その後、半年に1度は外面の塗装をするなど管理していく中で、湿度も保てるようになりました。
 ただし外面塗装といっても、木をまるごとコーティングするようなものではなく、定期的にメンテナンスをしても、自然に木は劣化していきます。管理の手間やコストがかかりますが、それでも私は、「自然に在る」からこその味が出てくるほうに魅力を感じます。


 現在も、おかげさまでたくさんの人がSANA MANEを訪れ、SAZAEを体験してくれています。
 そうしたお客様の中には、サウナに入ってから瀬戸内の海に飛び込む人もよくいます。その光景を見るのが楽しくてしかたないんです。
 私は大の海好きで、海に毎日癒されているのですが、SAZAEをきっかけにその感覚を持つ人が広がれば、海を大切にしたい、守りたいという思いにもつながっていくかもしれません。ほぼ誰にも言ったことはないんですが、実はそれが、SAZAEの裏テーマです。逆にいうと、自然の美しさや価値を記憶に刻んでくれるのが、自然の中にあるサウナの素晴らしいところだと思います。
今後、SAZAEがひとつのきっかけとなって、日本にもっとおもしろいサウナがいくつもでき、本場フィンランドから日本へと「サ旅」にやってくる人々が出れば、最高ですね。
 今や私の人生で、サウナに入るのは歯を磨くのと同じくらい日常的なことであり、サウナのない生活は考えられません。テントサウナの設置がすべての始まりでしたから、やはり行動の先には予想もしない未来があるものです。
 それ以外にも、サウナを作ったからこそ得られた大きな財産があります。
 プロジェクトを通じて知り合った、サウナを愛する仲間たちーー普通に仕事をしていてはなかなか出会えないような人々と出会い、関係性を築けました。
不思議なもので、サウナというたった一つの接点から、本当に心が許せる友人が何人もできました。それが自分にとって一番の宝物だと思います。



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