理想のサウナは「窓」で変わる。設置前に知っておきたいストーブ計算とガラス選びの知識
「理想のサウナ室を作るなら、サウナ室に窓をつけるか、つけないか?」この問いは、サウナを作ってみたい! と考えたことのあるサウナ愛好家にとっては、大きなテーマのひとつでしょう。
実際、窓がもたらす開放感は魅力的ですが、多くのサウナ施設においては、窓のない、あるいは小さな窓しかないデザインが主流です。
「外の景色を眺めながら蒸されたい」「光が差し込む明るいサウナが好きだ」そう感じているサウナ好きの方は、きっと多いと思います。
一方で、「なぜ窓のないサウナが多いのだろう?」そうした疑問を抱いたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、まずサウナ室の窓がもたらす唯一無二の魅力について深く掘り下げ、その上で、なぜ窓なしサウナが多いのかという理由を解説します。
さらに、窓を設置する場合には必須となるストーブのパワー計算や、安全性と法規に関わる窓の素材選びまで、サウナの窓に関するあらゆる疑問を徹底解説してまいります。
【メリット編】やっぱりサウナには窓が欲しい! 開放感がもたらす極上の体感
多くの人がサウナ室に窓を求める最大の理由は、何と言ってもその「開放感」にあります。しかし、その一言では語り尽くせないほど、窓はサウナ体験に多様な価値をもたらしてくれます。
・景色と繋がる、視覚的な癒やし
窓の向こうに広がる様々な景色は、それ自体が最高のリラクゼーションの源です。緑豊かな庭、雄大な山々、静かな湖畔、あるいは美しい夜景。ロウリュの蒸気と共に、視覚から得られる情報が心身を深く癒やしてくれます。目を閉じれば熱に集中でき、目を開ければ景色に癒やされる。この緩急のある体験は、窓付きサウナならではの醍醐味と言えるでしょう。
・自然光が創り出す、明るく心地よい空間
薄暗く静かなサウナも魅力的ですが、太陽の光が差し込む明るいサウナもまた格別です。特に朝、柔らかな光を浴びながら入るサウナは、心と体を心地よく目覚めさせてくれます。照明器具が作り出す光とは異なる、自然で温かみのある光は、空間に安心感とポジティブな雰囲気をもたらし、閉塞感を和らげてくれます。
・空間デザインのアクセントとしての価値
機能面だけでなく、窓はサウナ室のデザイン性を高める重要な要素にもなります。外の景色を切り取る「ピクチャーウィンドウ」として設置すれば、サウナ室は一枚の絵画を飾ったギャラリーのような空間に。モダンな建物であれば、直線的な窓がスタイリッシュな印象を与え、ログハウス風であれば、木枠の窓が温かみを演出します。窓は、サウナ室を単なる「蒸される場所」から、こだわりの「空間」へと昇華させてくれるのです。
【デメリット編】なぜ窓付きサウナは少ないのか? 知っておくべき現実的な課題
これほど多くの魅力があるにも関わらず、なぜ窓のないサウナは多いのでしょうか。それは、メリットの裏側にある無視できない現実的な課題、つまりデメリットが存在するからです。
・断熱性の低下と熱効率の悪化: ガラスは木材に比べて熱を伝えやすく、窓はサウナ室の熱が逃げてしまう大きな要因となります。ガラス面が大きいほど、熱は逃げやすくなってしまい、室温を維持するために、より多くのエネルギーが必要になります。
・コストの増加: 窓を設置するには、窓ガラス本体の費用や施工費が必要です。さらに、後述するように、窓によって失われる熱量を補うためには、よりパワフルなサウナストーブが必要となります。結果的に、初期費用もランニングコストも増加する傾向にあります。
・安全性の懸念: 高温環境下では、ガラスの「熱割れ(※ガラスが高温によって膨張し、その歪みに耐えきれずにひびが入る現象)」のリスクが伴います。万が一破損した場合、怪我につながる危険性があります。
・メンテナンスの手間: 窓は結露しやすく、汚れも目立ちやすいため、定期的な清掃が欠かせません。
これらのデメリット、特に断熱性の低下に関しては、高温を維持することが本質であるサウナという場にとって、致命的ともいえる問題です。そのため多くのサウナ施設では、熱効率を最優先し、窓を設けないか、設けるとしても小さなサイズに留めているのです。
しかし、これらの課題は正しい知識で対策することが可能です。次の章からは、これらのデメリットを乗り越え、理想の窓付きサウナを実現するための具体的な方法を見ていきましょう。
窓を設置するなら必須! サウナストーブの正しい容量計算
デメリットも考慮の上でメリットを優先し、やはりサウナ室に窓を設けたい! となった場合、ストーブ選びは通常よりも慎重に行う必要があります。なぜなら、窓から逃げる熱量を考慮せずにストーブを選ぶと、「なかなかサウナ室が暖まらない」といった事態に陥ってしまうからです。
サウナストーブの必要出力(kW数)は、以前の記事「サウナストーブの最適なスペックの選び方」でも触れた通り、基本的にサウナ室の容積(㎥)によって決まります。一般的な目安としては、容積1㎥あたり約1kWの出力が必要とされています。
【基本的な計算式】
サウナ室の容積(㎥)= 幅(m)× 奥行き(m)× 高さ(m)
しかし、これは断熱性が確保された窓のないサウナ室の場合です。窓や、断熱されていないレンガ、タイルなどの壁がある場合は、木材の壁に比べて熱が逃げやすくなるため、その熱損失を補うパワーがストーブに求められます。
そのため、ストーブの出力を計算する際には、実際の容積に「追加容積」を加算して考えるのが一般的です。目安として、断熱されていないガラスや石材の壁面積1㎡あたり、サウナ室の容積が1.2㎥程度増加する、と考えて計算に含めることが推奨されています。
《計算例》
幅2m、奥行き1.5m、高さ2.1mのサウナ室に、幅1.25m、高さ0.8mの窓を1つ設置する場合
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基本容積の計算:
2.0m × 1.5m × 2.1m = 6.3㎥ -
窓による追加容積の計算:
窓の面積:1.25m × 0.8m = 1㎡
追加容積:1㎡ × 1.2 = 1.2㎥ -
総合計容積の計算:
6.3㎥ + 1.2㎥ = 7.5㎥
この結果から、このサウナ室には約7.5kW以上の出力を持つストーブが適していると判断できます。
このように、窓の存在はストーブの選定に大きな影響を与えます。 大きな窓を設置すればするほど、よりパワフルなストーブが必要になることを覚えておきましょう。
素材選びが重要! サウナの窓ガラスの謎
サウナ室という高温多湿な特殊環境で使用する窓ガラスには、当然ながら特別な性能が求められます。主に「耐熱性」と「安全性」です。
サウナの窓には、主に強化ガラスや耐熱ガラスが使用されます。
・強化ガラス: 通常のガラスよりも強度が高く、急激な温度変化にも比較的強いのが特徴です。サウナのドアや窓に適しているとされています。
・耐熱ガラス: その名の通り、非常に高い温度に耐えることができるガラスです。熱による膨張が極めて少ないため、熱割れのリスクが低く、薪ストーブの覗き窓など、より高温になる場所にも使用されます。
では、しばしばサウナ施設で見かける「網入りガラス」はなぜ使われているのでしょうか?
網入りガラスの最大の目的は「防火」と「飛散防止」です。建築基準法では、火災の延焼を防ぐ必要がある「防火地域」や「準防火地域」において、開口部に防火設備の設置を義務付けています。網入りガラスは、この防火設備として認定されているのです。
万が一、火災の熱でガラスが割れても、中のワイヤーがガラスの破片を支え、崩れ落ちるのを防ぎます。これにより、炎や煙が他の区画へ広がるのを遅らせる効果があります。サウナ室のテレビ窓などに関する規定でも、この網入りガラスの使用が定められている場合があります。
ただし、網入りガラスはワイヤーとガラスの熱膨張率の違いから、「熱割れ」や、経年でワイヤーが錆びてガラスが割れる「錆び割れ」を起こしやすいというデメリットも存在します。
近年では、網(ワイヤー)が入っていなくても防火設備として認定されている、より高性能な「耐熱強化ガラス」も選択肢として存在します。
理想のサウナ体験は、窓一枚から
サウナ室の窓は、開放感という他に代えがたい魅力をもたらしてくれる一方で、熱効率の低下やコスト増など、慎重に検討すべき点をいくつも抱えています。
窓を設置すると決めたならば、
・熱損失を補うための、十分なパワーを持つストーブを選ぶこと
・安全性と法規制をクリアする、適切なガラス素材を選ぶこと
この2点について十分に考慮することが、快適で安全なサウナライフを実現するための鍵となります。
ただ熱いだけのサウナではなく、心地よさやリラクゼーションを追求する上で、窓の存在は大きな意味を持ちます。
本記事で解説した知識を元に、あなたの理想のサウナ空間に窓が必要かどうか、改めて考えてみてはいかがでしょうか。