黒田敏(東京建物株式会社) × ととのえ親方 (TTNE株式会社)対談記事
新たなスパブランド「TOTOPA」誕生の裏側
1999年以来スーパー銭湯「おふろの王様」の運営をしてきた東京建物グループが、新たなスパブランド「TOTOPA」の1号店を、国立競技場のすぐ目の前、都立公園内に2024年3月にオープンさせました。
今回は、東京建物株式会社の開発担当・黒田 敏さんと、TOTOPAのサウナのプロデューサーであるととのえ親方 に、このプロジェクトの背景について伺ってきました。
黒田敏(東京建物株式会社 新規事業開発部 課長代理)
1989年北海道亀田郡七飯町生まれ。2012年同志社大学商学部商学科卒業。同年、東京建物株式会社入社し、住宅販売業務に従事。その後、マンション開発業務を経験したのち、新たなマンション販売の形を追求し、コミュニティ施設併設のモデルルーム「OOOI」を開発。その後、2020年ソリューション推進部インフラPPP推進グループに所属し、PPP事業の投資検討業務に従事。現在新規事業開発部インフラ・PPP推進グループにて、新規事業開発を通して、新たな不動産ビジネスの可能性を追求。都立公園初のPark-PFI事業、都立明治公園プロジェクトの責任者として、事業推進中。
ととのえ親方(松尾大)
複数の会社を経営する傍ら、日本全国のサウナ施設のプロデュースを手掛ける実業家にしてプロサウナー。多くの人を“ととのう”状態に導いてきたことから“ととのえ親方”と呼ばれるように。秋山大輔(サウナ師匠)と共にサウナクリエイティブ集団[TTNE]を立ち上げ、サウナ界における様々なジャンルで活動を展開。その活動が世界No.1サウナブランド「Harvia」の目に留まり、サウナ師匠と共にグローバルアンバサダーに世界で初めて就任。活躍の場を世界にも広げている。
ーー 新たなスパブランド「TOTOPA」1号店は、国立競技場のすぐ目の前で、さらに都立公園内という、すごいプロジェクトなのですが、いつ頃、どのような形で始まったのでしょうか?
黒田 最初は2021年11月に公園事業者として選定されたのがスタートでした。東京都の公募の与件として、園内にリラクゼーション施設を設けることが条件としてあり、店舗計画を立てる中で、この一番大きな棟の2F・3Fにサウナを入れようという構想が生まれました。当社は「おふろの王様」など温浴施設の運営実績がありましたし、これはもう公園の中にサウナをつくるしかない!と決まりました。
親方 その時点で「おふろの王様」をそのまま入れる、という選択肢はなかったんですか?
黒田 そこがひとつ大きな課題で。「おふろの王様」はスーパー銭湯業態で、今回のスペースには大きすぎるんです。そのままでは運営が難しい。そこで、新しいブランドを立ち上げることにしました。都市型のスパ施設をつくるという経緯ですね。
ーー なるほど。「TOTOPA」というブランドコンセプトについて教えてください。名前の由来も気になります。
黒田 「おふろの王様」を小型化しよう、という発想から始まったんですが、せっかく公園の中にあるので、もっと幅広い人に利用してもらいたいと考えました。最初は男性専用という案もありましたが、より開かれた施設にするために、男性施設が多いサウナですが、あえて男女どちらも楽しめる形にしました。
名前の「TOTOPA」は、親方と一緒に企画を進める中で生まれました。「ととのえるスパ」というコンセプトから、「ととのえるパーク」にも通じるネーミングになり、「パ」の響きが決め手となりました。
親方 名前って、どこで決まるか分からないですよね。でも「TOTOPA」はピタッとハマった。響きに勢いもあるし、言いやすい。 ーー ととのえ親方がプロデューサーとして関わることになったのは、どんな経緯ですか?
黒田 サウナをやると決めた時点で、すぐに親方に声をかけました。開発期間は2年ほどで、かなり初期段階から関わってもらいました。
親方 2019年に黒田さんと出会って。その頃はまだTOTOPAの話はなくて、公園の開発を検討していた時期かな。そこから時間が経って、いきなり連絡が来て。「国立競技場の目の前にサウナをつくるので手伝ってほしい」と。 ーー黒田さんがこのプロジェクトを進めることになってすぐ、親方に依頼されたんですね。
黒田 はい。初対面のときから親方にはとても親しく接していただきました。 はじめましてはサウナの中にいたときで、「あ、ととのえ親方だ!」って周りからもざわざわされていたのに、私にもとてもフレンドリーに話しかけてくださって。「今日来てくれてありがとうね」って、すごく腰が低くて(笑)。 その姿勢に、この人は本当に人と真摯に向き合う方なんだな、と強く印象に残りました。
ーー親方は、オファーを受けたときどのように感じましたか?
親方 東京建物さんって言ったら、アマン東京を誘致したビルの開発やカンデオホテル六本木の建物を開発したり、おふろの王様なども手がけている会社。そんな会社が「公園の中に新しい事業をつくる」「国立競技場の目の前です」って話してくれて、「これはすごい現場になりそうだ!」ってワクワクしたね。
黒田 それで、工事現場にも来てもらって(笑)。
親方 都市型のスパって、東京にはあまりないんですよね。郊外にはあるけれど、都心のど真ん中にどういう箱ができるのか、すごく興味があった。
ーー施設のコンセプトはどのように固めていったのでしょうか?
黒田 プランはゼロベースでした。TTNEと組んだ理由は、今回つくりたいサウナ像として、日本の一般的な中年男性向けの「THE・サウナ」ではなく、グローバルで注目されているサウナのように感度の高いセンスの良い人たちがアクティブな日常を送れるようなサウナを目指していたからです。親方はそうしたサウナの視察を多くされていたので、アドバイスをいただきながら形にしていきました。
親方 ちょうどフィンランドに行った直後で、頭の中にたくさん素材があったんですよね。ネストというサウナとか、フィットネス×サウナの施設とか、いろいろなアイデアを出して。 既存のサウナの感覚しかないと、TOTOPAのようなサウナはつくれない。最初から施工の責任や規定基準があって、後から変えられないことが多いから。 でも今回は、最初から開発に関わることができたから、自由な発想で設計できたのが大きかったかな。
ーー 実際にプロジェクトが動き出して、どんな点にこだわりましたか?
親方 男性側のコンセプトは、すぐ決まったかな。自分たちがユーザーだから。 ただ、女性側はかなり時間がかかりましたね。「女性ってサウナに入るのか?」という疑問もあって。
黒田 女性サウナーの割合は男性に比べてまだ少ないので、従来のサウナ施設とは違ったアプローチが必要でした。最初からサウナに慣れていない人にも楽しんでもらえるように、岩盤浴的な要素を取り入れ、何回も施設に通うことで段階的にサウナの魅力を知ってもらうコンセプトにしました。
ーーTOTOPAのこだわりポイントを教えてください。 まず、男性フロアの「左右ナ(サウナ)」というネーミングには、どのような背景があるのでしょうか?
親方 ある日、「左右ナ」っていう言葉をデザイナーの秋山具義さんに見せられて。ロゴのバランスが面白いなと感じたんですよね。全部に「ナ」の字が入っていて。 サウナ室も、男性用エリアでも最初の構想時は1つだったんですが、「種類があった方がいいんじゃない?」っていう考えから、3つに分けることにして。そのとき、ふと「左右ナ」というフレーズが浮かんだんですよね。3つの部屋にぴったり合うな、と。
黒田 3つのサウナがあることで、「誰でも気軽に入れるサウナ」っていうコンセプトが明確になったんですよね。 お風呂もいろいろ、休憩場所もいろいろつくったら、多様な“ととのい”が生まれるんじゃないかと。3(サウナ)× 2(水風呂)× 3(休憩場所)で、18通りのととのい方が楽しめる設計になりました。
ーー3つのサウナ室、それぞれの特徴は?
親方 僕は真ん中の「なごみ系」の「ナ室」が一番好き。シティポップとか懐メロをかけたりして。 最初は「テーブルなんて邪魔じゃん!」って反対してたんですけど、人が肘をついたり飲み物を置いたりして、くつろいでるのを見て、「これ、実は面白かったんだな」と思って。仕切りの役割もあるし、意外と実用性があったんですよね。
黒田 カフェみたいに、会話が生まれるのがいいですよね。サウナ好きな人が、サウナ初心者を連れてきて、自然と語れる場所になってる。
ーー左室の方は、部屋のベースとなっている青色が印象的ですね。
親方 左室は、左脳を刺激するサウナにしたかった。計算とか、ロジックとか、直線的な感じで。
黒田 最初のイメージは映画『トロン』みたいなデジタルな雰囲気だったんですよ。でも最初の演出はちょっと「怖すぎる」って言われて(笑)。それで今の形に落ち着きました。
ーーでは、右室は?
親方 右室は、没入感があるのが特徴。みんなあぐらをかいて、手を重ねて座るんだけど、それがまるで神様が並んでるみたいで(笑)。なんか、自然と何かを感じたくなるんですよね。
黒田 右室は、アート等の感性や感覚を刺激する雰囲気。暖色系の照明で、左室とは真逆の角のない空間になっています。
ーーサウナストーブのこだわりは?
親方 とにかくデカいのを置きたかった(笑)。26kWのストーブ、HARVIAのシリンドロプロ26をどーんと鎮座させて。「これで一発であたためられるかな」って。
黒田 シンメトリーも意識して、ビジュアル的にもマッチするものを選びました。左右のサウナはオートロウリュ、真ん中だけセルフロウリュにして、楽しみ方を変えています。
ーー女性用サウナは後から追加されたんでしたよね?
黒田 はい、もともとつくる予定はなかったんですが、「ここはサウナが必要でしょ!」という声が多く、途中で図面を書き直しました。 結果的に、女性サウナーの方にも喜んでもらえてよかったです。
親方 「ここにサウナがなかったら、めちゃめちゃ意見言われるぜー!」って思って(笑)。
黒田 そこから「女性用には、どういうサウナがいいか?」ってめちゃくちゃ悩んで。名前の候補もいろいろ出たんですよ。「むすこ」とか「おむすび」とか(笑)。結果、「かおりのサウナ」から「かおるこ」と「スチーム」からとって「すちこ」に落ち着きました。
親方 いろいろ、考えてるんですよ(笑)。イメージを湧かせるために、いろいろな施設を見に行ったりね。「すちこ」に敷く薬草を採りに行ったり。
黒田 どうしたら熱さと香りを両立させれるかとか、体験する姿勢は着座が良いか寝た方がよいかとか、いろいろ考えましたね。
親方 男性用の方は、エリア内のデザインにもこだわって。エリア内の柱は、実は要らないので、普通はつけない。いわゆる、化粧柱ってやつ。けれど、これをつけないと、のぺっとした空間になっちゃう。 立柱があるだけで、「TOTOPA」って感じになるんだよね。風格が出るというか。
ーー公園内でのサウナ施設ということで、何か制約や苦労はありましたか?
黒田 公園内に設置できる施設には、実は制限があって。単純な温浴の事例はすくなく、カフェやスポーツ施設は設置できるので、公園施設の中の「運動施設」の枠組みで申請しました。 それで、ランニングステーションや館内にもエアロバイクを置く形にしました。エアロバイクは正直つかいづらいとは思ってたんですが(笑)。今ではランニング後に温冷交代浴を利用される方も増えて。想像以上にスポーツ利用者の需要がありました。
ーー2024年3月にオープンして10ヶ月ほど経ちますが、反響はいかがですか?
黒田 温浴施設はリピーターが鍵ですが、最初はプロモーションを控えめにして、じわじわと広がるのを待ちました。 9月に開催した資生堂さんとのコラボしたイベント「BAUM Sauna Ritual」で女性の認知が一気に上がり、11月のサウナシュラン受賞でさらに盛り上がりましたね。 12月に開催した初めてのレディースデーは、オープン以来最高の平日売上を記録しました。
ーーおお、どんどん盛り上がってきて、素晴らしいですね。 ちなみに、こちらの店舗は「TOTOPA 都立明治公園店」と銘打たれていますが、今後の展開も考えているのでしょうか?
黒田 次も、公園みたいな開かれた空間に、TOTOPAの2号店を予定しています。ビギナーの方にも入りやすくて、みんなでワイワイ楽しめるサウナ。それが「TOTOPA」ブランドの強みですね。
親方 東京建物って建築系のプロジェクトは多いイメージなんですが、サウナについてはどんな風に捉えてるんですか?
黒田 ピッチャーで言うところの、ナックルボールみたいな感じですかね(笑)。ストレートじゃなくて、変化球だけど「おっ、きたな!」って思われるようなアウトを取れる切り札的存在です。(笑)日本の文化として、多くの方が利用する施設で、最近ではサウナをめがけて来場するくらい日常にとっても求められるものになってきている。今後もその期待に応えて、さらに広めていけたらいいなと思ってます。 これからも、都市型スパの新たなスタンダードをつくることを目指し、謙虚にいいものを作っていければと思います。
親方 こうした都市型のスパ施設はまだ少ないので、TOTOPAがその先駆けになれるといいですね!