STORY 37 : サウナシュラン受賞施設インタビュー 「大阪サウナDESSE @Minamisenba, Osaka」

STORY 37
~サウナシュラン受賞施設インタビュー~

全国12000以上ともいわれるサウナ施設の中から、革新的な11の施設を毎年表彰するサウナアワード「SAUNACHELIN(サウナシュラン)」。
その狭き門をくぐりぬけノミネートされた施設は、日本のサウナ界のけん引役として、多くのサウナ―たちを虜にしてきた。そんなサウナ施設を作ったのは、いったいどんな人なのか。どのようにサウナと出会い、どうやって理想の施設を作り上げ、運営しているのか。”最高のサウナ”の裏舞台に迫り、物語を追った。

大阪サウナDESSE @Minamisenba, Osaka
SAUNACHELIN 2024 受賞
総支配人 文城哲

個室サウナを作るつもりが
どうもピンとこなかった

「水風呂って、本当に気持ちいいんですか?」
「そりゃあもう、たまらなくいいですよ」
 すでにサウナ狂いだった知人との、何気ない会話。思えばこれが、すべての始まりでした。
 それまでの私は、デトックスやダイエットのために汗を流す場としてサウナを使っていました。水風呂も、ととのった経験もありませんでした。しかしサウナブームに入り、いろいろな情報が出てくる中で「どうやらサウナには、まだ自分が知らない一面があるようだ」と感じ、興味を持ちました。
当時、ほぼ毎日通っていたジムがサウナを備えていたため、私は早速水風呂に入ってみました。確かにすっきりはしたんですが、ととのう、という感覚はあまりよくわかりませんでした。結局その日は、サウナと水風呂を2往復しました。
それで改めて調べれば、水風呂の後に休憩を入れ、そこでととのうというのが王道と分かりました。そして実際に繰り返す中で次第にととのう感覚が深まり、サウナにはまっていきましたね。ジムに行けば必ずサウナに入るのが習慣化し、日常に組み込まれた感じです。
 ただ、自分がサウナ好きになったからといって、じゃあサウナ施設を作ろう、とつなげて考えたわけではありません。
 背景となったのは、本業であったアミューズメント施設の経営が難しい局面をむかえたことでした。私は、父がトップを務める会社の副社長として働いていましたが、禁煙条例やコロナ禍といった大きな波がきて、店の売上げがずいぶん減ってしまいました。
 規模は小さいながら不動産業もやっていたこと、さらにはコロナ関連の補助金がおりたことで踏みとどまれましたが、今後も従業員の生活を守るためには、何か新たな事業が必要だと考えていました。
 いつものジムで、サウナ後の水風呂に入っていたときのことです。頭の中に、ふっと一つのアイデアが浮かびました。
 コロナ禍の今、サウナを求めているけれど入れない人はたくさんいる。そんなニーズに応えるなら、サウナを個室でやったら、どうだろう。それなら比較的少ない投資で始められる……。
 思い立ったが吉日で、さっそくリサーチをかけてみると、ちょうど日本初となる完全個室のサウナが東京にできたばかりで、市場はまだまだブルーオーシャンでした。早速、その個室サウナに予約を入れ、大阪から東京に向かいました。
 それで実際に個室サウナを体験するわけですが、正直どうもピンとこず、「また来たい」とも思えなかった。その施設自体が悪かったわけではありません。個室サウナは、自分の求める形ではなかったんです。
 いくら時代に合っているから、儲かりそうだからといっても、自らが納得できないものに投資し、事業化するのには抵抗を感じました。
 では、いったい自分はサウナに何を求めているのか。そこから東京で有名な施設をいくつもめぐる中で見えてきたのが、開放性というキーワードでした。ある程度広い場で、自分を解き放ってのびのびする感覚、それが私が求めるサウナ体験のひとつかもしれない……。それをどう実現するかはまだはっきりしてはいませんでしたが、「本気で取り組む事業だからこそ、自分が最高と感じるサウナを作りたい」と思うようになりました。
 そこからは、全国のサウナ行脚です。最高と思えるサウナの具体的なイメージを少しずつ形にしていきました。それと併せて、設計や施工を担ってくれる会社も探しました。業界に人脈などなかったため、「サウナ建設」「サウナ設計」などグーグルで検索をかけ、ヒットしたところをとにかく当たるというやり方でしたが、色よい返事はなかなかもらえず苦労しました。
 結果として、サウナ施設の設計や施工経験のほとんどないメンバーで進むことになります。

日本一「最高…!」と思われる
サウナにしたかった

 施設を作っていくにあたり、最初から決めていたのは、「どんな人が来ても自分が一番気持ちのいい入り方ができるサウナにする」ということでした。自分の中で、この選択の自由は譲れない条件でした。
 それを実現するには、ある程度の規模感が求められます。100坪ほどの広さの空間にサウナが5つ、6つあるような施設をイメージしていました。
 実際に物件も見つけました。ビジネス街にある1階の路面店で、家賃も許容範囲内ということで、契約を進めました。
 しかし契約直前で、その物件が別の会社に取られてしまうというハプニングが起きます。
 物件が変われば、それまで描いてきたあらゆるプランを大幅に見直さねばなりません。似た物件を必死に探しましたが、そううまくいくはずもなく苦労しました。
 ようやく見つかった物件は、広さが300坪、家賃は想定の3倍近くと、予算を大きくオーバーするものでした。しかも今すぐ決断しなければ、別の会社に渡ってしまうということでした。
 これをまた逃したら、次はいつになるかわからない。もう腹をくくるしかない。そう思って契約の判を押しましたが、この時はかなり胃が痛かったですね。
 そうまでして契約した理由の一つが、立地です。新たな物件は、心斎橋駅から徒歩三分で、ビジネス街からも、住宅街からも、商業施設からもほど近く、さまざまな属性の人が前を通る場所でした。「どんな人が来ても最高のサウナ体験ができる」というコンセプトとマッチしていたのが、決め手の一つでした。

 とはいえ当初の計画の倍以上のスペースを、どう使うか……。しかもメンバーにサウナの専門家はいません。「ロッカー何個あったらいいでしょうね」「どうなんですかねえ」なんてゆるい会話をしながら、自分たちで調べながら進むしかありませんでした。
 しかしだからこそ、常識に縛られずアイデアを出し合えたという面もあります。
 当時を振り返ると、100坪や200坪のサウナ施設がどんどんできている時期で、うちとしてもどうにか差別化を図らねばなりません。
 それで私は「素晴らしい日常が詰まっているサウナにしたい」とメンバーに伝えていました。もともと業界の常識がないうえに、おもしろさ重視の突飛なアイデアを募ったわけですから、普通の施設ができあがるはずないですよね。 
 その最たる例が、サウナ室の中から外につながり、頭まで浸からないと向こう側に行けない水風呂を有する「川サウナ」でしょう。サウナ室の温度管理や安全面などを考えれば、専門家ならまず勧めない設計だと思います。
 また、畳敷きや土壁、炉に見立てたストーブなど日本の伝統的な空間を体感できる「茶室サウナ」の設計は、私の大学時代の卒業論文が茶の湯だったことに端を発しています。

 そうして「こんなのがあったらおもしろいよね」と、自由な発想で空間を埋めていった結果、大阪サウナDESSEの設計が次第に出来上がっていきました。そして全貌が見えたところで、それをイラストにおこし、プレスリリースで発表しました。
その反響は大きかったです。「こんなのホントに実現できるのか」「わくわくする」などと話題になったのは、おもしろさを徹底的に追求したからこそだったと思います。


デッセは一生完成しない施設
アップデートを続けていく

 着工後には、なぜか日本中のスプリンクラーの在庫がなくなり、工事がストップするというトラブルもありました。その間も家賃は払い続けているわけですから、頭を抱えましたね。問屋やメーカーに電話をかけまくり、小さな会社が抱えていたわずかな在庫をなんとか譲ってもらい事なきを得ましたが、本当に肝が冷えました。
 そんな無数のトラブルを超え、2023年4月にオープンにこぎつけたんですが、当然ながらそこがゴールではありません。
 運営が始まってすぐ、業界の常識がなかったからこそのデメリットに気づきました。温浴施設設計のイロハともいえる、勾配のつけ方や排水の位置、清掃のしやすさといった基本が守られていないことで、不要なところに水が溜まるなどの問題が出てきたんです。

 オープン前の期待度も高く、自分たちとしても「サウナシュランは獲って当たり前」と思っていました。それくらい革新的な施設を作った自負があったんですが、噴出する問題を前に未熟さを思い知りました。当然ながらサウナシュランからも漏れたわけですが、正直かなり悔しかったですね。
 そんな気持ちはさておき、実は課題が出てくるのはある程度、想定内でもありました。
設計当時から私は「一生完成しない施設を作ろう」とよく言っていました。拡張性が高く、アップデートし続けるからこそ、お客様は常に期待感を持って足を運んでくれると考えていたからです。
 実際に、オープンから1年も経たず、ほぼすべてのサウナを作り直し、ストーブの数を変えたり、新たに勾配をつけたりと、かなり大きくリニューアルしました。
 資金面を考えるなら、少しずつアップデートを重ねたほうがいいわけですが、修正すべき点が目の前にあるのに「いつかやろう」とは言いたくなかった。どうせ変えるなら、言い訳をせずに今、徹底的にやり切りたかったんです。
 そうしてスタッフも、私も、無我夢中で進んでいった結果、より多くの人に足を運んでもらえるようになったと思います。
 施設がオープンしてから、2年半ほど過ぎたときのこと。一本の電話がかかってきました。
「おめでとうございます、サウナシュランに選ばれました」
 その時は車の中にいたんですが、その場で叫んだ記憶があります。
 スタッフに受賞を伝えると、みんな目に涙を浮かべながら「よかった、本当によかった」といって抱き合いました。自分の思い、そしてスタッフの思い……過去がようやく報われた気がしましたね。
 とはいえ、それで終わりではありません。デッセは、一生完成することのない施設ですから。これからも、既存の温浴施設の枠にとらわれず、どんな人にも最高のサウナ体験を届けるべく、アップデートし続けていきたいと思います。


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