STORY 37
~サウナシュラン受賞施設インタビュー~
全国12000以上ともいわれるサウナ施設の中から、革新的な11の施設を毎年表彰するサウナアワード「SAUNACHELIN(サウナシュラン)」。
その狭き門をくぐりぬけノミネートされた施設は、日本のサウナ界のけん引役として、多くのサウナ―たちを虜にしてきた。そんなサウナ施設を作ったのは、いったいどんな人なのか。どのようにサウナと出会い、どうやって理想の施設を作り上げ、運営しているのか。”最高のサウナ”の裏舞台に迫り、物語を追った。
KIWAMI SAUNA 大須 @Nagoya, Aichi
SAUNACHELIN 2025 受賞
オーナー 中島惇生


一度きりの人生、何をするか
たどり着いた答えがサウナだった
振り返れば、僕がメガバンクを辞めてサウナ施設のオーナーとなったのは、祖父が背中を押してくれたからでした。
経営者としていくつもの事業を手がけ、社会貢献活動もしていた祖父。いつも自由闊達に生きていました。
そんな祖父がこの世を去ったとき、僕は強く思いました。一度きりの人生、好きなことをやらずに終わるのは嫌だ、と。
メガバンクでは日々、山積みのタスクに追われ、会社での評価が、生きるすべてでした。
この先もずっとそれでいいとは、自分にはとても思えない。じゃあ、いったい何をやりたいのか……。
考えに考え抜いてたどり着いた答え。それこそが、サウナだったんです。
僕の初めてのサウナ体験は、東京・池袋の老舗サウナでした。
サウナ好きの友人に誘われた当時、ちょうどドラマの『サ道』が話題で、多少の興味はありました。ただ、いざ行ってみると、友人から「サウナ室からはまだ出るな」「水風呂は絶対、すぐ入れ」などと強要され、それが本当に嫌でした。
しかしその友人は、「なぜ重要なのか」も論理的に説明してくれたため、なんとか我慢できた、という感じです。
水風呂の後、浴槽の縁に腰かけていると、なんともいえない多幸感に満たされてきました。それと同時に、頭が一気にクリアになりました。毎日、遅くまで仕事をして、不規則な生活で溜まった疲れがリセットされた感覚もあり、「これが“ととのう”ってことか……」と、感動しました。
それからは、毎日サウナに通いました。
すると体調はあきらかによくなり、メンタルも安定し、仕事のアイデアもどんどん湧いてくる。こんな素晴らしいものがあったのかと、嬉々としてサウナに行き続けました。これほどまでに、一つのことにはまったのは生まれて初めてでした。
サウナ未体験の人を連れて行き、楽しみ方を伝えると、みんながサウナにはまってくれ、「めちゃくちゃいいね」「教えてくれてありがとう」と言ってくれました。それもうれしかったですし、快感でした。
そんな中で祖父が他界し、自分を深く見つめなおした時、すでに生活の一部となり、今後も間違いなくハマり続けるサウナを、自らの仕事にしてみたいという結論に至ったんです。
そして2021年、僕はメガバンクを退職し、僕なりの「サ道」を歩み始めます。
ただ、そこでいきなり施設を作ろうとしたわけではありません。始めにやったのが、銭湯のコンサルティングです。
サウナブームに入り、銭湯を改装してサウナを導入する施設もいくつか出てきた一方で、すでにサウナがあるのにそんな潮流を知らず、集客に苦戦する銭湯もたくさんありました。
そうした施設に対し、サウナ文脈でPR活動を行って集客につなげるというのが、僕が考えたアイデアでした。
それで実際に営業をかけ、コンサルティングを行い、集客もできたんですが、僕は早々に疑問を感じました。
サウナと出会って、約3年。情熱の赴くままに全国各地の施設を巡り、フィンランドにも行きました。自分が心地いいと感じるサウナの形が、ある程度見えていました。
そんな中、自分がやりたいのは、本当に集客戦略なのか……。いや違う、結局僕は、いいサウナを作りたいんだ。そう気づきました。
コンサルティングという仕事なら、顧客とともに施設を作るという選択肢もあったでしょうが、いくら流行っているといっても、1千万や2千万の投資をしてサウナを改装するようなところはなかなか出てきません。
結局、自分でリスクを取らない限り、いいサウナは作れないんです。
そして退社から3か月後、僕は施設づくりに動き始めます。
フィンランドの老舗のように街に溶け込んだサウナを作りたい
どんなサウナを作りたいか、ある程度の方向性は最初からありました。
セルフロウリュで自分の好みに合った調整ができる、サウナ室のどこにいても呼吸がしやすい、水風呂は立って入れるのがいい。都心部でも外気浴ができるスペースが欲しい……。全国各地のサウナを巡る中、自らが理想とする施設のイメージが出来上がっていたんです。
その一方で、ただ施設を充実させるだけでは勝負できないと思っていました。サウナの種類や水風呂の数、外気浴スペースの広さといったハード面でいくら背伸びをしても、資本に余裕のある大手サウナにはとてもかないません。
ではどこで戦うか。僕が行き着いたのが、「ととのい方」での差別化でした。あらゆる面でこだわり、いつ来ても最高にととのう、感動すら覚えるサウナ体験を提供しよう、そこしか勝てるところがない。そう考えました。
そうしてコンセプトを練るのと並行して、物件を探しました。場所は、前の職場があり、サウナの聖地のひとつともいわれる名古屋に絞りました。
また、資金調達も課題でした。銀行からの融資はもちろん検討しましたが、それだけでは限界がありそうです。
そんな中、知り合いに「とりあえずやってみたら」と勧められ、軽い気持ちで応募したのが、YouTube「令和の虎CHANNEL」でした。それが、なぜかとんとん拍子で出演が決まり、そこで条件付きながら満額達成。連動して行ったクラウドファンディングでは、目標額200万円に対し1000万円を超える額が集まり、サウナ史上もっとも大きな支援を受けることができました。
ここで資金の目途がついたのが、最高のととのい体験を目指すうえで大きな足掛かりとなりました。支援してくれた皆さんには、感謝しかありません。
物件についても、いい出会いがありました。
紹介された古民家を見た時、僕の頭の中に浮かんだのは、フィンランドのサウナです。フィンランドの現存最古の公衆サウナ、ラヤポルティ。古めかしいけれど清潔で、街に溶け込み、入ればゆっくりと時間が流れる、古民家なら、そんな施設が作れるんじゃないか。そう感じました。

こうして古民家をリノベーションして作ったのが、「KIWAMI SAUNA 本店」です。構造上の制限から、サウナ室や水風呂、ととのいスペースの配置はほぼ限定されていたため、あとはそれぞれの質をいかに高めるかでした。
工事を進めつつ、こうしたい、ああしてほしいと相談して作っていったんですが、こだわるほどに予算がかかり、しかも最終的にいくらになるかわからないのが、正直しびれましたね。足りなくなったら終わりなので、自分の生活費を削れるだけ削っていました。
最終的に、どこにいても心地よく蒸気を浴びられるサウナ室、2メートルの水深がある水風呂、そして中庭に設けた外気浴スペースなど、自分のこだわりは形にできたと思っています。
未だに記憶にあるのが、プレオープンの日にサウナストーブが不具合で温まらなかったことです。クラウドファンディングで権利を買ってくれたお客様など大切な人々が期待して来てくれたのに、極みどころか最悪の体験になってしまい申し訳なかったです。まるで神様に、調子に乗るなと怒られたようで、あらためて気持ちを引き締めました。




最高のサウナ体験を支えるのは
「おどろき」と「清潔感」
オープン後、幸いにも経営は順調で、日々多くの人に来てもらうことができました。それで運営も資金的にも落ち着いたので、僕は2号店の物件探しを本格化しました。より多くの人にサウナを広めたいので、最初から施設は複数、作ろうと思っていたんです。
さまざまなタイプの物件を見ていましたが、そこで再び古民家と出会い、心奪われてしまいます。結局、1号店と同じ方向性となりましたが、だからこそ経験が生きる部分もありました。業者の方々も同じ顔ぶれで気心も知れ、比較的スムーズに進んでいったように思います。
目指したのは、本能的に「すごい」と驚いてもらえるような、これまでの常識に縛られないサウナです。


その設計思想がもっとも表れているのは、メインサウナかもしれません。
もともと、中庭を眺められる場所に設置するのは決めていて、天井高をできる限りとりたかったので、1階と2階をぶち抜いて作ることにしました。
それで天井高を4メートル、段数は4段に設定して、腰をおろせば自然と足が宙に浮くような急こう配のサウナ室となったんです。
こうして見た目のダイナミックさを演出したわけですが、実はそれ以外にも狙いがあります。セルフロウリュの際、最上段から降りていくのはやや手間ですから、入ってきた人に「ロウリュお願いできますか」と声をかけたり、逆に出ていく際、上段の人に「ロウリュしましょうか」と聞いたりとお客様同士のコミュニケーションが生まれやすくなります。フィンランドでは当たり前となっているそんなやり取りを日本でも根付かせたいという思いがあるんです。
ストーブについては、石川県金沢市の株式会社BSAさんに特注で作ってもらいました、。セルフロウリュを無制限にできるフィンランドスタイルにこだわりたかったので、それでも壊れづらい耐久性の高いストーブにしています。
サウナ室の前にある水風呂の一番の特徴は、地続きであること。湖にそのまま入るようなイメージで設計しました。
ただ、そうして掘って水風呂を作ると排水の高さが取れず、地下にポンプを入れて排水する必要が出てきます。そもそも狭い場所を掘る作業がまず大変で、重機が使えず人力で掘り進めるしかありませんでした。そんな苦労のかいあって、体験的にも、景観としても、よい水風呂ができたと思っています。


こうして設備面にはあらゆる点でこだわったつもりですが、あわせて考えたのは、メンテナンス性でした。
古民家をリノベーションしたこともあり、1号店ではやや掃除に手間がかかっていました。その反省を生かし、2号店では、たとえばサウナの座面の下に直接潜れるようにして、高圧洗浄機で一気に洗えるようにするなど、工夫を凝らしました。労力は抑えつつも徹底的に清掃ができる。そんな形にしたかったです。
清潔感は、サウナに「また行きたい」と思ってもらうためのもっとも重要なポイントです。フィンランドでは、戦時中でも身体を清潔に保つため、公衆浴場ができたといいます。それが土台にあるので、ラヤポルティを始めとした老舗サウナもとにかく清潔で、最高のサウナ体験を支えています。日本をみても、老舗の有名サウナで、汚れが目についたり、嫌な臭いがしたりするところはまずありません。建物や設備が古くても、いくらでも清潔に保てるわけですから、そこに言い訳はできないんです。
こうして2025年9月に、「KIWAMI SAUNA 大須」を無事オープンさせることができました。ただ、それで完成とは思っていません。現状維持は退化、という考え方で、スタッフと毎週、アイデアを出し合い細かいアップデートを日々、積み重ねています。
それに加え、今後さらに新たな施設を作っていきたいです。
目標は、すべての人がサウナを習慣にする幸せな社会を作ること。そのために、ユニークな施設をもっと作り、より多くの人に「なんかおもしろそうな施設ができた」と足を運んでもらいたいんです。そして一度来てもらえば、サウナ、水風呂、外気浴という一連の導線を自然に辿ることになり、最高のととのいが手に入る。それで気づいたらサウナにはまり、生活が豊かになっている。
そんな人を増やすため、これからも新たなチャレンジを続けたいと思います。





